日産のリストラ【2024】経営陣・戦略・信頼の3つの原因から探る

「やっちゃえ日産」から「立て直せ日産」へ・・・日産自動車が発表した9,000人規模の人員削減計画。

この衝撃的なニュースの裏には、世界の自動車産業が直面する大きな転換期における日産の苦悩が隠されています。

杉山誠空
世界をリードする自動車メーカーとして君臨した企業が、なぜここまでの大規模リストラを決断せざるを得なくなったのか。電気自動車へのシフト、ハイブリッド車の不在、そして下請け法違反問題など、複数の要因が絡み合う中で、日産の復活への道筋はどこにあるのか。

本記事では、日産が大量リストラになった原因を3つに分けて解説します。

 【2024】日産が大量リストラなった原因①

日産リストラの現状

2024年の業績悪化の実態

日産自動車の2024年上半期決算は、営業利益が前年同期の3,367億円から329億円へと90%も減少するという深刻な状況となりました。

この急激な業績悪化は、世界的な自動車市場の変化に対応できなかったことが主な原因です。

杉山誠空
特にアメリカ市場でのハイブリッド車需要への対応遅れと、中国市場でのEVシェア喪失が大きく影響していますね。

2024年の業績数値

この急激な業績悪化により、グローバルで9,000人規模のリストラ実施を決定。

また生産能力を従来の500万台から340万台まで縮小する計画を発表。ただし、研究開発費は6,500億円を維持し、将来の成長に向けた投資は継続する方針です。

日産組織構造の問題

日産の組織構造における最大の問題は、極端なトップダウン体制にあります。

現場を知らない上層部が全ての決定権を持ち、実際のユーザーニーズや市場動向を反映させにくい環境となっています。

特に商品開発において、現場の技術者の意見よりも役員の好みが優先され、結果として市場ニーズとかけ離れた製品が生まれる原因となっています。

また、役員への過度な気遣い文化により、事前会議や根回しに多大な時間が費やされ、本来の業務効率を著しく低下させています。

日産経営陣の課題

経営陣の最大の問題点は、高額な役員報酬と実績の不釣り合いです。

杉山誠空
内田社長の報酬は6.5億円から3.3億円に引き下げられましたが、同業他社と比較しても依然として高水準です。トヨタの社長が6億円、ホンダが4億円、スズキが2.26億円という状況で、業績に見合わない報酬体系となっています。
【2024】日産が大量リストラなった原因①

この状況、つまり現場を知らない経営陣による偏向的な意思決定と、成果に見合わない役員の報酬体制が、大量リストラに繋がった原因のひとつです。

【2024】日産が大量リストラなった原因②

北米市場での苦戦

ハイブリッド車不在の影響

北米市場において、日産の最大の弱点となっているのがハイブリッド車の不在です。

2023年の北米市場では、ガソリン価格の高騰を背景にハイブリッド車の需要が急増しており、トヨタやホンダなどの競合他社が好調な販売を記録しています。

一方、日産は主力セダンやSUVにハイブリッドモデルを用意できておらず、この成長セグメントで大きな機会損失を被っています。

杉山誠空
具体的な数字で見ると、2023年の北米市場におけるハイブリッド車の販売シェアは約15%まで拡大していますが、日産はこの成長市場をほぼ完全に逃している状況です。要するに完全なる戦略ミスですね。

電気自動車戦略の誤算

日産は早くから電気自動車の開発に注力してきましたが、北米市場での展開には大きな課題を抱えています。

「リーフ」や「アリア」などのEVモデルを投入していますが、充電インフラの不足や航続距離への不安から、期待したほどの販売数を確保できていません。

特に広大な国土を持つアメリカでは、充電インフラの整備が遅れている地域が多く、これがEV普及の大きな障壁となっています。

杉山誠空
また、テスラやGMなどの競合他社が積極的な価格戦略を展開する中、日産のEVは価格競争力で劣勢に立たされているのです。

中国市場での競争激化による日産の脱落

中国メーカーとの価格競争で敗退

中国市場では、BYDをはじめとする地場メーカーの台頭により、厳しい価格競争に直面しています。

現地メーカーの電気自動車は、日産の製品と比較して約3分の2程度の価格で提供されており、品質面でも差が縮まっています。

特に、中国政府による自国産業育成策の影響で、現地メーカーは補助金や優遇措置を活用した積極的な価格戦略を展開できており、日産の収益性を圧迫しています。

杉山誠空
2023年の中国市場におけるEV販売シェアでは、日産は上位10社にも入れない状況となっているのです。

日産ブランドの低下

中国市場における日産のブランド価値は、過去5年間で著しく低下しています。

かつては「高品質な日本車」というブランドイメージで優位性を保っていましたが、現地メーカーの品質向上や、テスラなど新興EVメーカーの台頭により、その優位性が失われつつあります。

特に若年層の消費者の間では、現地メーカーの先進的なデザインや充実したコネクティビティ機能が高い支持を集めており、日産は「伝統的な」「古い」というイメージが定着しつつあります。

このブランド力の低下は、販売価格の維持を困難にし、収益性をさらに圧迫する要因となっています。

【2024】日産が大量リストラなった原因②
グローバル市場ニーズとの乖離を生むことになった、マーケティング戦略の失敗が日産の急落原因のひとつです。

【2024】日産が大量リストラなった原因③

下請け法違反の影響

2024年3月に明らかになった下請け法違反は、日産のコスト構造に大きな影響を与えています。

違反是正のために約30億円の返金を余儀なくされただけでなく、取引先との関係修復のために、従来のような強力なコスト削減要請が困難になっています。

具体的には、部品調達コストが前年比で平均8%上昇しており、この状況は今後も継続する見通しです。

杉山誠空
さらに、取引先との信頼関係の毀損により、新技術開発や品質改善における協力体制にも影響が出始めています。

販売奨励金増加の背景

競争力の低下を補うため、販売奨励金(インセンティブ)への依存度が高まっています。

2023年度上期の北米市場における1台あたりの販売奨励金は、業界平均を約20%上回る水準まで上昇しています。この背景には、製品の競争力不足を価格面で補おうとする構造的な問題があります。

特に、ハイブリッド車不在のセグメントでは、既存モデルの販売維持のために多額のインセンティブ投入を余儀なくされており、利益率を大きく圧迫していおり、この状況は、単なる一時的な販売促進策ではなく、製品競争力の根本的な問題を示唆しています。

人材流出の可能性

リストラによる最大のリスクは、優秀な人材の流出です。

特に、EVや自動運転などの先端技術分野においては、人材の獲得競争が激化しており、リストラの発表だけでも若手技術者の自主的な退職を促す可能性があります。

また、新卒採用においても、リストラの影響で応募者数が減少する傾向が見られ、将来的な人材パイプラインへの影響も懸念されています。

【2024】日産が大量リストラなった原因③
業績上昇に欠かすことが出来ないのは「人財」です。日産は、9000人の解雇でその財産を失うことになりますが、本当のところ日産が失ったのは、その社員や下請けとの「信頼関係」です。そのことに気づいているのか?ここ大切です。 

【2024】日産の大量リストラからの復活はあるのか?

日産の2024年リストラ計画は、従業員、取引先、株主など、多くのステークホルダーに影響を与える重要な転換点となっています。

9,000人規模の人員削減による年間1,000億円のコスト削減効果が見込まれる一方で、優秀な人材の流出リスクや技術開発力への影響が懸念されています。

杉山誠空
現在の資金繰りが約12-14ヶ月分しか持たない危機的状況とも囁かれ、手持ち現金が極めて少なく、在庫も滞留している状況とのこと・・・。

正直、現在の日産が復活できる道は極めて厳しい状況です。

市場の評価は、このリストラ改革からの実効性と、特に電動化戦略の再構築にかかっています。2024年以降の主力車種へのハイブリッドシステム搭載など、現実的な市場アプローチへの転換が、日産の競争力回復の鍵になります。

日産の真の課題は、市場ニーズへの対応力と収益構造の改革にあり、この改革の成否が今後の企業価値を大きく左右することになるでしょう。

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