フジテレビ第三者委員会が中居正広氏による性加害を認定する報告書を公表し、大きな波紋を呼んでいます。
中居氏は既に芸能界からの引退を表明していますが、刑事責任を問われる可能性はあるのでしょうか。
「強制性交等罪」と「不同意性交罪」の違い、示談成立の影響、元捜査一課関係者の見解の相違など、中居正広の逮捕の可能性について法的観点から詳しく解説します。
また、フジテレビの組織的問題と再発防止策についても検証し、この問題が投げかける社会的意義について考察します。
中居正広氏逮捕の法的可能性
適用される法律と刑事責任
中居正広氏の行為に対して適用される法律は、事件発生時点(2023年6月2日)の法律となります。
この時点では、2017年に改正された強制性交等罪が適用されることになります。2017年の刑法改正により、それまでの強姦罪は「強制性交等罪」に変更され、親告罪から非親告罪となりました。
これにより、被害者の告訴がなくても捜査当局の判断で立件することが理論上は可能となっています。
強制性交等罪の法定刑は5年以上の有期懲役となっており、2017年の改正前の3年以上から引き上げられています。
また、この罪は非親告罪であるため、被害者が告訴を取り下げたり、示談が成立したりしても、捜査機関の判断で起訴することが可能です。
ただし、実際の運用においては、被害者の意向や証拠の状況などを総合的に判断して、起訴するかどうかが決定されます。
元捜査一課関係者の見解
元警視庁捜査一課の佐藤誠氏はSNS上で、中居氏とフジテレビ社員B氏(編成幹部)とのLINEのやり取りについて「完全に不同意性行罪等の共謀共同正犯たる証拠のライン」であり、「もう言い訳しようがない共犯関係」だと指摘しています。
佐藤氏は「捜査員の意欲があれば事件はうまくまとめられるはず」との見解を示しており、立件の可能性を強く示唆しています。
この第3者委員会の結果を聞いて、警視庁が事件化に前向きに動かないのであれば警察の存在意義は無い🤔以前から言っているが、この中居正広の事案は組織犯罪であり凶悪犯罪でもある🤔…
— 佐藤誠(元警視庁捜査第一課) (@Makoto_OB) March 31, 2025
一方で、別の元捜査一課関係者は、立件は難しいのではないかという見方を示しています。
その理由として、既に当事者間で示談が成立していること、また刑事事件として立件するには被害者側の協力が不可欠であることを挙げています。
特に密室での犯罪となるため、被害者の詳細な証言なしには立証が困難であり、万が一被告人が否認した場合に有罪に持ち込むための十分な証拠固めが必要となります。
このように、元捜査一課関係者の間でも見解が分かれている状況です。
【中居正広逮捕の可能性】立件の障壁となる要素
示談成立の影響
中居正広氏と被害女性の間では既に示談が成立していることが報告書で明らかになっています。
示談が成立しているということは、民事上の解決が図られており、被害者が一定の賠償を受け取っている可能性が高いことを意味します。

強制性交等罪は非親告罪であるため、示談が成立していても理論上は刑事責任を問うことは可能です。
しかし、実際の運用においては、示談の成立は検察の起訴判断に影響を与える要素となります。
被害者が民事上の解決に満足し、これ以上の刑事手続きを望まない場合、検察は起訴を見送る判断をすることも少なくありません。
特に被害者のプライバシーや精神的負担を考慮すると、示談成立後の刑事立件はハードルが高くなると考えられます。
被害者の協力と証拠収集の課題
性犯罪事件の立証において、被害者の協力は不可欠です。
密室で行われた犯罪の場合、被害者の詳細な証言なしには事実関係の立証が極めて困難になります。
中居氏の事案においても、刑事事件として立件するためには、被害女性が捜査に全面的に協力し、事件の詳細な経緯や状況を証言する必要があります。
しかし、既に示談が成立している状況では、被害者が再び事件を蒸し返すような形で捜査に協力することを望まない可能性が高いと考えられます。
仮に捜査が開始されても、被告人が容疑を否認した場合、有罪判決を得るためには「合理的な疑いを超える証明」が必要となります。
性犯罪の特性上、物的証拠が乏しい場合も多く、被害者の証言の信用性が争点となることが多いため、立証のハードルは非常に高くなります。
フジテレビの企業責任と再発防止策
第三者委員会が指摘した組織体質
第三者委員会の報告書では、フジテレビの組織体質に対して厳しい指摘がなされています。
報告書によれば、フジテレビでは「全社的にハラスメント被害が蔓延していた」とされ、特に「性別・年齢・容姿などに着目して呼ばれる会合」の存在が人権意識の欠如を示していると批判されています。
「バラエティー制作局においてセクハラを伴う飲み会が顕著」だったことも指摘されています。
さらに、被害女性が性被害を訴えていたにもかかわらず、上司である局長から当時の社長まで、これを人権問題として捉えなかったことも問題視されています。
報告書では、幹部たちが「男女間のトラブル」という思い込みで対応したことが問題であり、このような組織体質が、被害女性を適切に保護できなかった根本的な原因であると指摘されています。
フジテレビの対応と今後の取り組み
フジテレビは第三者委員会の報告書を受けて、清水賢治社長が記者会見を行い、「調査報告書の内容は、私たちにとって、大変厳しい指摘ばかりでした」と述べています。
フジテレビは報告書で指摘されたハラスメント事案について、必要な事実確認をした上で、関係者に対する厳正な処分を行うことを約束しています。
また、人権救済メカニズムの整備やコーポレートガバナンスの強化が必要であるとの指摘を受け、「原局主義」や「同質性・閉鎖性・硬直性」など今回の遠因となった企業風土にメスを入れていくことを表明しています。
フジテレビは被害女性に対して改めて謝罪するとともに、「許されるならば、被害女性との『対話』の機会を持ち、救済を実現していきます」と述べています。
今後、フジテレビがこれらの約束をどのように実行していくかが注目されています。
【総括】中居正広逮捕の可能性
フジテレビ第三者委員会による中居正広氏の性加害認定は、芸能界とメディア業界に大きな衝撃を与えました。
報告書では、フジテレビ内の「昭和的な組織体質」や人権意識の欠如が厳しく指摘され、経営陣の刷新が必要な状況に追い込まれています。
この問題は単に一人のタレントの不祥事ではなく、日本の大手メディア企業の構造的問題を浮き彫りにしました。
中居氏の刑事責任については、法的には2017年改正の強制性交等罪が適用され、非親告罪であるため理論上は立件可能です。
しかし、示談成立や立証の困難さから、実際の逮捕・起訴には高いハードルがあります。
一方で、社会的制裁として中居氏は既に芸能界からの引退を余儀なくされています。
この事案は、権力を持つ者による性加害の問題や、それを適切に処理できなかった組織の責任について、社会全体で考える契機となっています。
今後、フジテレビの再発防止策の実行状況や、中居氏の刑事責任が問われるかどうかについて、引き続き注目が集まるでしょう。